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「そういえば、貴方の名前は何なんです?“猿山の大将”は渾名のようなものですよね?」
「ん? アァー…」
「? 何です?」
「アァー、その……俺、名前が無ぇんだよ」
「え?」
「ついでに言うと記憶も無ぇ。気がついたらこの山に居たんだ。それ以前の記憶は全く無ぇ」
初めは言い辛そうにしていた“猿山の大将”だったが、吹っ切れたのか実際それほど気にしていないのか、後半はすらすらと喋った。
だがその話を聞いて、幸村はすっかり項垂れてしまった。
「……すみません。そんな事情があるとは知らず…」
「いいっていいって。名前なんかなくても別に困ら…」
「『佐助』」
「あ?」
「『猿飛佐助』今日からそう名乗って下さい」
「佐、助……猿飛、佐助…」
“猿山の大将”は、何度も何度もその名を繰り返し呟いた。
幸村はそれを黙って見守り続ける。
「佐助…佐助……猿飛…猿飛、佐助……俺は“猿飛佐助”だぁーーー!!」
「っ?!」
不意に今日一番の大声を出し、“猿山の大将”いや“猿飛佐助”は幸村を抱き上げ、くるくると回り出した。
「名前だ!俺にも名前がある!俺は猿飛佐助!!猿飛佐助だ!!」
“佐助”は本当に嬉しそうな顔をしていた。
そして暫くしてから“佐助”は抱き上げていた幸村をゆっくり下ろした。
「ありがとな、幸。俺に名前をくれて。さっきはあんなこと言っちまったけど…本当は、ずっと名前が欲しかったんだ。本当に、本当にありがとな。だから、俺は決めたぞ!!俺はお前のことをずっと守る!!忍として、お前のことを守ってやる!!」
「…その台詞、全裸じゃなかったらかっこよかったんですけどね」
「んなっ?!」
今更ながら全裸であることを思い出し、“佐助”は本日何度目か分からない絶叫を上げたのだった。
「じゃーお前ら、俺はもう行くけど達者で暮らせな」
「「「「「ウキィ~…」」」」」
「んな顔すんなよ。一生の別れじゃねぇんだ。生きてりゃまたどっかで会えんだろ」
「「「「「ウ~キィ~…」」」」」
「だぁーもー辛気臭せぇ!! テメェら俺を笑顔で送る気はねぇのかよ!? おら、笑顔で俺に別れのあいさぁあつ!!」
「「「「「う…ウキィー!!」」」」」
「声が小せぇ!!おら、あいさぁあつ!!」
「「「「「ウキィー!!」」」」」
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