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「はぁ……二刻は歩いたでしょうか…なかなか会えないものですね」
手頃な岩に腰を下ろし、一息入れる幸村。
日頃鍛えているとは云え、やはり女の子。
山道を歩くのは苦であるようだ。
「喉、渇きました…水筒はバイクに積んだままですし、我慢するしか………!」
微かに水の音が聞こえた。
幸村は耳を澄まし、その音の在処を探った。
「――……此処から東の方向…音の正体は、おそらく川…」
幸村は腰を上げ槍を握り直し、東に向かって歩き始めた。
「ったく、ついてねぇぜ。よりにもよって泥沼に落ちるとはな」
「ウキー…」
「んな顔すんなボケ。落ちたのが俺でまだよかったじゃねぇか」
“それ”がそう言うと、一匹の猿は申し訳なさそうに何度も頭を下げ、抱えていた子猿を連れて群れの中に戻って行った。
此処は山の中流付近にある川。
そこで“それ”は身に付けていた衣服を全て脱ぎ、体を丸洗いしていた。
そうと云うのも数刻前、“それ”を筆頭に木の上を移動していた猿たちの一匹が、抱えていた子猿を誤って落としてしまったのだ。
しかも泥沼の真上の木から。
だが“それ”はいち早くその事に気づき、捨て身で子猿を助けに行ったのだ。
結果、子猿は助かった。
しかしその代償として“それ”が泥沼に落ちたのである。
「ひっくし! あーやっぱ川の水は冷てぇな。つーか体が冷え……!!」
“それ”は泥を洗い落とすのを止め、また鼻をスンスンと動かし始めた。
「匂う……女の匂いだ。しかもかなり近い…」
口角を上げながらそう呟くと、“それ”は水の中に身を潜めた。
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