episode1 お猿の大将

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「はぁ……二刻は歩いたでしょうか…なかなか会えないものですね」 手頃な岩に腰を下ろし、一息入れる幸村。 日頃鍛えているとは云え、やはり女の子。 山道を歩くのは苦であるようだ。 「喉、渇きました…水筒はバイクに積んだままですし、我慢するしか………!」 微かに水の音が聞こえた。 幸村は耳を澄まし、その音の在処を探った。 「――……此処から東の方向…音の正体は、おそらく川…」 幸村は腰を上げ槍を握り直し、東に向かって歩き始めた。 「ったく、ついてねぇぜ。よりにもよって泥沼に落ちるとはな」 「ウキー…」 「んな顔すんなボケ。落ちたのが俺でまだよかったじゃねぇか」 “それ”がそう言うと、一匹の猿は申し訳なさそうに何度も頭を下げ、抱えていた子猿を連れて群れの中に戻って行った。 此処は山の中流付近にある川。 そこで“それ”は身に付けていた衣服を全て脱ぎ、体を丸洗いしていた。 そうと云うのも数刻前、“それ”を筆頭に木の上を移動していた猿たちの一匹が、抱えていた子猿を誤って落としてしまったのだ。 しかも泥沼の真上の木から。 だが“それ”はいち早くその事に気づき、捨て身で子猿を助けに行ったのだ。 結果、子猿は助かった。 しかしその代償として“それ”が泥沼に落ちたのである。 「ひっくし! あーやっぱ川の水は冷てぇな。つーか体が冷え……!!」 “それ”は泥を洗い落とすのを止め、また鼻をスンスンと動かし始めた。 「匂う……女の匂いだ。しかもかなり近い…」 口角を上げながらそう呟くと、“それ”は水の中に身を潜めた。
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