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しかし同時に、何故このような少女がこんな山の中に一人でやって来たのだろう、と云う疑問が湧いてきた。
“男”は今更ながら少女に違和感を覚えた。
「…なぁ、聞いていいか? テメェは何者だ? 何でこんな山ン中に一人で来た? しかもセーラー服で」
“男”がそう尋問すると、少女――幸村はまた先程までの無表情に戻り、深々と頭を下げてきた。
「申し遅れました。私甲斐の国、真田安房守昌幸が長女・真田源二郎幸村と申します」
凛とした、気品のある雰囲気がその場を包んだ。
“男”は、幸村から目を逸らすことが出来なかった。
魅入ってしまった、と云った方が妥当であろうか。
だが、幸村は気にせず話し続けた。
「私が此処・猿山に来た理由、それは村人に頼まれて、非道な悪事を繰り返す[猿山の大将]を退治するためです」
「アァ?」
[猿山の大将]
その言葉に反応し、今まで惚けていた“男”は凄みのある声を発した。
しかし幸村は尚も話し続ける。
「聞こえませんでしたか?『[猿山の大将]を退治する』と言ったんです。つまり貴方を――…」
「気づいてやがったのか」
ニヤリと笑い、“男”――“猿山の大将”は身構えた。
「ハッ、上等だぜ。来いよ、猿山の大将の力見せてやる」
周囲が殺気に満ちていく。
“猿山の大将”は臨戦態勢に入った。
だがそれに対し幸村は――…
「やめです」
静かにそう言い、足下に置いてあった槍を蹴り飛ばした。
「なっ?!!」
これには“猿山の大将”も心底驚いてみせた。
「な、テメェ正気か!?この状況で武器蹴り飛ばすか普通?!!」
「やめたからいいんですよ」
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