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該当事例番号 001
『初メマシテ 忘レナイワ
総テガ私ノ奇跡ナノ』
愛玩ホムンクルスという
旧式アンドロイド
人の様に笑い 人の様に泣いて
感情豊かな 呼吸する“人形”
少女は青年の許へ送られた
真白なロングフレアスカートを揺らして
薄紅色の花を五輪 両手で差し出し
それを言った
それからの日々は とても穏やかで
時間を感じなくなる程
互いに支えて生きていた
「いいですね…それだけは守って下さい」
あの日 革の鞄を持っていた男
少女の開発機関の一人だ
冷たい声で静かに耳打した
少女は忘れることがない
遥か膨大な記憶を持っている
美しい景色の1フェムトも違わず覚えている
守る約束…それは
過度の淋しさを味わわせない事
孤独というものは記憶すら蝕む病だと
青年と少女は何時も一緒だったそうだ
孤独の意味すら忘れてしまう位に
暖かく響く鼓動が次第に遅くなって
気付けば最後まで来ていたのだ
徐々に薄れ逝く少女の記憶達
=忘却は許されない=
愛だけを与えられ
遙かなる時を生きた少女は
白く輝き微笑んだ
まるで天使のように柔らかく
または死神のように果敢なく
青年が口付を落そうと触れた瞬間
少女は総てのモノに感謝しながら
総ての記憶を手放した
人の様に涙を流して
一つだけ後悔を残して
少女は失敗作 該当事例番号 001 として
記録されている
感情豊かなアンドロイドは
実用性が無いという事で
これが人間らしい最初で最後のホムンクルスになるだろう…
青年は少女を何よりも愛していたという
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