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両手が紙の上から離れない。
透明な何かに縫いとめられたように、押しつけられていて、ディエ・ディークは瞬時に怖くなった。
「な、に? これは何? 教授!」
「落ち着きなさい。静かに、こう言いなさい。『まだ尚早なれば、今は解散』……さあ」
厳しい顔になった教授が、早口に命じる。
混乱するディエ・ディークは、半泣きになりながら、言われたとおりに唱えた。
すると、手の上で、見えないけれど確かにいる何かが、身動ぎした。
はっきりと感じた。
不満そうなその気配に、ディエ・ディークの恐怖は限界を超えた。
「まだだって言っただろっ! 早くいけ!!」
気がつけば、怒鳴りつけていた。
教授の青くなった顔は、さらに引きつってしまったが、結果、その怒声で事態は収拾がつく。
ディエ・ディークの幼い怒鳴り声に、気配がさあっと消えた。
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