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あっさり本に興味を移した、ディエ・ディークの横に座って、男は話し始めた。
「時、ってわかるかな? 時間だけど。朝、昼、夜。一年前、今日、ずっと未来」
男は本をぱらぱらとめくり、言葉に合うページを開き、ディエ・ディークには挿し絵を見せる。
「見えないし、触れもしないけれど、なくてはならないものだよ。時間が止まったら、私たちは死ぬ、ということだ。存在もしていられない」
「どういうこと?」
「今、私と君が会話をしている、このあいだにも時間は流れる。息をするあいだも時は流れる」
話しながら、男は指を立て、すうっと動かした。
この動かした距離が、言葉を話すあいだに流れた時間だ。
「生まれて成長して、自分は……君の名前を聞いてもいいかな?」
「ディエ・ディーク」
話に引き込まれていたため、何も警戒しないでディエ・ディークは名乗っていた。
男はそれに小さく笑う。
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