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「時間が存在しなければ、私たちの考える頭も止まる」
今、理解しようと考えている、それ自体が止まる。
「いいかい。砂を手にすくいあげて、手からこぼれ落ちる。落ちる――時間の流れとともにね」
実際に足許の地面をなでて、砂埃を拾い、さらさらと手の平から落としていく。
「それが止まる」
どきっとした。
「時間が止まれば砂が止まる、砂を手にする私も止まる。見ている君も止まる。――時間が止まるから、君は止まったことにも気づかないよ」
男がたたみかけるように言うその内容を、ディエ・ディークはどこまで理解できたろう。
「君を救けられる人もいない。世界中の時間が止まって、君の家族の時も止まる。――でも誰も気づかないよ。誰もの時間が止まっているから。考えることもできないよ。――時が止まっているから」
幼い顔がこわばっていくのを見て、男の顔がぱっと笑う。
「でも平気だよ。この国にはね、時の翁という、すごい聖霊がいるから」
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