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怒ったようなディファ・ロースの声に、ディエ・ディークは言葉を失った。
ぽっかりと穴が開いたような気分で、それを何と表現するのか、幼い身にはわからない。
しかしすぐに、震えるほどの怒りが込みあげてきた。
きっと怒りだったのだ、と思う。
とっさに、衝動を押さえ切れず、走りだした。
泣きそうになった顔を、今だけは父に見せたくなかった。
何か違うと思いながら、どこがどう違うのか、言葉にできない。
走るうちに、頬を涙が伝う。
父のどの言葉より嫌だったのは、兄のことを話す言葉だ。
愚か者、とでも言うように吐き捨てた言葉。
あきらめた言葉。
沈み込む言葉……。
少し具合を悪くすることは、今までだってよくあった。
体が弱い人なのだから。
――まるで、兄上が死んでしまうみたいな言いかたじゃないか! どうして、あんな言いかたをするんだ!
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