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盛大に泣くのをこらえて、それでもこらえきれない涙を落としながら、感情にまかせて走り抜けた。
それまでディエ・ディークは、ひとりで王宮の奥まできたことがなかった。
王宮は、第一王家から末席のエル家まで、棲み分けるようにそれぞれの宮を持っている。
渡り廊下や小路でつながっていても、それぞれの往来は少ない。
ディエ・ディークは気がつくと、見たこともない回廊にいて、すっかり迷っていた。
誰かに声をかければ、きっとすぐに戻れるが、そんな気分にもなれない。
誰もいないところを目指して、知らない廊下をさ迷ううちに、ずいぶん奥まで迷い込んだらしかった。
――あ……。法王宮の近くだ。兄上にくっついて、一度だけ、きたことがある。
物珍しさにはしゃぐディエ・ディークに、兄はひとつの扉を見せた。
その、はっきりと記憶に残る扉を、ひとりぼっちのディエ・ディークが見つけた。
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