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「寒いな、おい」
俺は疑問を抱いていた。
7月と言えばセミが鳴き、夏休み直前の独特な高揚感に包まれ、夕方に雨が降り出しずぶ濡れになって風邪をひいて夏休み前半を過ごす、という生活リズムがあるはずだ。だが、セミも鳴かなきゃ高揚感もなし、おまけに今降ってんのは雪だ。
・・・・・・・・なぜだろう。
日本が南半球の仲間入りでもしたかそれともサンタでも攻めてきたかいやそれしか考えられない。いや待て、サンタって冬にしか来ないだろ、じゃあ違うかなら南半球になったのかそうかさぞオーストラリアは暑いのだろうなとはるか北にあろうカンガルーの王国へ旅立たんとしていると、
プルルルルル.....
電話が鳴り響いた。
「もしもし?」
「もしもし、俺、俺だけど。」
「だれ、スティーブ?」
「そう、スティー・・・ってお前、俺ですよ俺。武宮ですよ。
」
「そう」
「そうってお前・・・覚えてるか?俺のこと、5年前のことを。」
「ああ?5年前?何の話だ、俺がおまえと会ったのは3日前の話しだろうに」
「え?いやだから」
「人違いだろ、たぶん」
俺の頭の中の俺が、3日前の記憶を拾ってきた。
夏休みも近いってのに違和感をぬぐえない7月16日。最低気温-2℃はあろうかという朝にも関わらず、俺は日課のジョギングをしていた。
時刻は午前5時。誰もいないだろうと霧の中を一目散に走ってゆく。
そのときだった。
「おい、千良。」
武宮伊知郎と名乗る男は、どうやら俺を誰か別の人と間違えていたらしい。にもかかわらず、「なにかの縁だから」
と連絡先を交換することになってしまい、今に至るというわけだ。なんで俺が連絡策を教えたかというと、ランニング姿の俺にゆたんぽを貸してくれると申し出たからであって、それを返さなければならなかったからだ(その中に発信機が入っていたというのは後日知ることになる。)
そんなこんなで、俺と武宮は知りあったとさ。
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