1599人が本棚に入れています
本棚に追加
/274ページ
高校に入学したばかりの皆川雪緒は、屋上のフェンス越しにグラウンドを眺めていた。
中学三年間励んだ陸上部には入らず、暇を持て余した放課後のことだった。
桜の花弁が風に舞う季節。
陸上部の練習を遠くから眺める雪緒の膝は、スタート合図の度にぴくりと反応していた。
「雪ちゃんも走ればいいじゃん。」
その様子を見ていた幼馴染みの明日香は、勿体ないと言いたげに笑った。
雪緒の走る姿が大好きだった。
風の様に走る姿は、トラックの中で誰よりも輝いていた。
「……いつかね~。」
くるりと体を返しフェンスにもたれ掛かった雪緒は、紅く染まりつつある空を見上げて呟いた。
顎先にかかる程度の短めの髪が、風に靡く。
くすぐったいような、もどかしいような気持ちを隠すように、明日香から目を反らした。
最初のコメントを投稿しよう!