其の零

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高校に入学したばかりの皆川雪緒は、屋上のフェンス越しにグラウンドを眺めていた。 中学三年間励んだ陸上部には入らず、暇を持て余した放課後のことだった。 桜の花弁が風に舞う季節。 陸上部の練習を遠くから眺める雪緒の膝は、スタート合図の度にぴくりと反応していた。 「雪ちゃんも走ればいいじゃん。」 その様子を見ていた幼馴染みの明日香は、勿体ないと言いたげに笑った。 雪緒の走る姿が大好きだった。 風の様に走る姿は、トラックの中で誰よりも輝いていた。 「……いつかね~。」 くるりと体を返しフェンスにもたれ掛かった雪緒は、紅く染まりつつある空を見上げて呟いた。 顎先にかかる程度の短めの髪が、風に靡く。 くすぐったいような、もどかしいような気持ちを隠すように、明日香から目を反らした。
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