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黄昏に染まる校舎を、俺は一人歩いていた。
部活動に勤しむ生徒の喧騒とは別の【音】の在処を探して。
ワイワイガヤガヤとした人の声に混じって聞こえてくるのは、ピアノの音色だ。
弱く。優しく。時に激しく。
旋律は流れている。
音楽なんぞにはまったく興味がなく、オタマジャクシすらまともに読めない俺だが、そのピアノの音色には何か引き寄せられるモノを感じた。
「……ここか」
そうして暫く歩き。
辿り着いたのは普段使われていない旧校舎にある音楽室の前。
ピアノの音はこの中から聞こえている。
誰か弾いてるのか。
物好きも居たもんだな。
こんな時間にこんな所でピアノの演奏会だなんて。
一体、どんな変わり者が弾いてるのかと気になった俺はそいつの顔でも拝んでやろうと扉をスライドさせ―――思わず言葉を失った。
美しい。
その一言に限る。
夕日色の中でピアノを弾いていたのは、この世のモノとは思えないほど美しい容姿をした女だった。
人形の様に整った顔立ち、雪にも負けない白さを誇る長髪。
それが風景と相まって、まるで一枚の絵に見えた。
「………あ」
やがて、音が止んだ。
俺に気付いたその女が指を止めたからだ。
ワンテンポ置いて。
美しい女は、俺に向かってこれまたこの世のモノとは思えない美しい最高の笑顔を向け。
「何覗いてやがるんですかメーンwwwぶち殺しますですわよはいさっさっwww」
そう、言い放った。
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