ゆび

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ぱちん ぱちん ぱちん 決して広いとはいえない風呂場に単調な音が響いていた。 女は丁寧に爪を切っていた。右手親指から小指にかけて。 次に左手の親指から小指にかけて。暴れて動く手を左手でおさえつけながらそれでも丁寧に爪を短く出来るだけ丸く整えるように。 背もたれ付きの椅子に目隠しをされて座らされ、両腕を肘掛け部分に縛り付けられている少女はまだ小学生にも満たないかもしれない。女はこの少女の名前も、どこから連れて来られたのか何も知らない。ただ彼らが目隠しをした状態の少女をこの部屋に連れてくるだけだ。少女は眠らされているので女はすぐにこの風呂場まで抱えてきて椅子に縛り付ける。あとは作業を行うだけだ。だが女はすぐに作業にかからず、まず両手両足の爪を整える。なので薬の効果が途中で切れ少女が作業に至る前に目覚めてしまうこともしばしばあった。だが女は爪を切ることをやめなかった。 ― 両手の爪を切り終えるのに15分もかかってしまった ― 女は髪をかきあげ一度深呼吸をした。 別に爪なんか切らなくてもいい。上の人間からはそう言われている。だが女は、それがせめてもの償いと思い爪を切っていた。
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