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腫れ物を扱うように接する使用人
厳しく管理するように叱る母
晴美にとって家は窮屈な空間だった
それに比べて傷の手当てを済ませ、何をするでもなく、ただ流れるだけの時間は晴美には何故だか安心できた
「~~♪~~♪~~♪♪」
「ねぇ?お兄ちゃんの歌ってるお歌は、なんていうお歌?」
ベンチにちょこんと座り車椅子の男をまじまじとみる晴美
車椅子の男は歌を止めると晴美に顔を向けポツリと言った
「……ジムノペディだよ」
「ふぅ~ん…外国のお歌?」
「そうだよ…日本語で"裸の子供たち"っていうんだ…マリーがよく良樹に歌って聴かせてたんだ…」
「ふぅ~ん?」
よく分かっていない晴美は相づちだけを返した。包帯を半分巻いた男の表情は晴美からは逆光で見えなかった
その日から居心地の悪い家から逃げるように晴美は毎日公園に遊びに行くようになる
「やぁ…晴美ちゃん。またお家抜け出してきたのかい?」
「だって!!車椅子の人となんて遊んじゃいけませんって……」
頬をぷぅっと膨らませ文句を言う晴美を見て、男は困ったように笑って遠くを見た
「それは晴美ちゃんの事を大事に思ってるからだよ」
「違うもん!!みんな[横田の跡取り]が大事なだけだもん!!」
晴美がそう答えた瞬間、車椅子の男は息をのんだ
包帯で半分しか見えない顔が強ばっているのが晴美から見ても分かった
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