受け継がれていく国

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「和でいいな。」 昼下がりの林道を淡々と進む馬車。 その御者であるアルトは周囲の風景と雰囲気によって、ついその言葉を呟かされた。 体を覆う少し汚れた薄茶のマントと長めの黒髪が、木々の間を吹き抜ける暖かい風によって揺れる。 前の国を出てから今日で5日目、そろそろ次の国へ着いてもいい頃なのだが……道を間違えたか? いや、そもそも目的地を決めて移動している訳ではないので『道を間違える』という表現より『道の選択を失敗した』と言う方が正しいのかもしれない。 まぁ、そのうち何処かの国が見えてくるだろう、と気楽に考えながら、御者台に取り付けてある箱の中から灰皿とタバコを取出し火を点けた。 抑、時間を持て余すのには慣れている。 元々の性格に付け足し、16の時から昨年までの4年間に渡る一人旅によって、ソレには磨きがかかってきた。 それにここ半年間は、荷台で寝ているオマケによって、何かと騒がしくなる事が多く、逆にこういった一人でのんびりする時間というのは、貴重なもとなりつつある。 なので、その時間を満喫しようと、アルトは足でリズムを取りながら、陽気に鼻歌を歌いだした。
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