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兄さんは利き腕に矢が突き刺さっているだけで他の者達よりはまだ軽傷だった。
兄さんは強い。
傷を負ってても素早い剣技で兵を倒していった。
しかし……
人数が多すぎる……
兄さんがどんなに強くともこの人数は無理だ。
僕も慣れない剣を握る。
勝つのは無理でも一矢報いることは出来るはずだ。
狂気に犯され狂った兵達なんかに僕達の誇りは汚されない!!
強く剣を握り締め駆け出そうとした。
だが
「マルス!!!」
戦いの神の名を借りた僕の名前が呼ばれ、足を止める。
「言っただろう
お前は手を汚すな
優しいお前のままで居ろと」
兄さんは戦いの最中に優しく笑った。
こんな時になにを言ってるんだ……。
兄さん……
「従えないよ!!!
兄さん!!!」
僕は叫び斬りかかろうとした。
だが、僕が斬る前に目の前の敵は首と胴が離れた。
ドサリと兵の体が崩れ落ちる。
そして、目の前に兄さんが居た。
血に濡れた全身と、射殺されそうほどの鋭い眼光。
これが、戦士の目なんだと、僕は始めて兄さんに心からの畏怖を抱いた。
「お前だけは生き延びるんだ……
そして……
俺達の仇をとってくれ」
兄さんは悲しそうに笑った。
「皆に命ずる!!!
我らが軍師マルスだけは何としても生き延びさせよ!!!
彼が居る限り我らの意志が消えることはない!!!
我らが素晴らしき軍師マルスに栄光あれ!!!」
『栄光あれ!!!』
兄さんの言葉を皆が復唱する。
そして皆は僕のために道を作ってくれた。
「走れ!!!
マルス!!!
とにかく走れ!!
そして……
俺達の無念を晴らしてくれ!!!」
皆の願いが僕に託された。
僕が迷ったのはほんの数秒だった。
皆が作ってくれた道を猛然と駆け出した。
「頼んだぞ!マルス!」
「頑張ってくれ!!」
「俺達の最後の希望だ!」
「無事で!」
「俺達の悲願を果たしてくれ!!」
皆が僕に声を掛ける。
僕は頷くことしか出来なかった。
必死に泣きたい思いをこらえる。
涙で視界が歪めば危険だからだ。
でも歯を食いしばっているせいで、僕は皆に何一つ言えなかった。
振り返らずただひたすらに走った。
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