36人が本棚に入れています
本棚に追加
一歩外に出ると、そこは灰色の世界。
アール氏はまた、溜息をついた。
そこは見渡す限りコンクリートの街だった。
そのコンクリートの上に建物が蟻の群れのようにびっしりと横たわっている。
昔は賑わっていたこの街も、
数年前に治安が悪化したのを境に廃れていった。
落ちぶれ、活気を無くしたこの街は、人間の腐った臭いがする。
アール氏が出不精になった理由はこのせいでもあった。
休日にも関わらず静かな街。
街が荒廃しているためか、それを包む空も灰色に霞んで見える。
アール氏は不意に、少年時代に見た澄んだ空が恋しくなる。
何にも染まらない、あの純粋な空が。
その時、花屋の店先に立つ美しい女性が、
彼に笑いかけたように見えた。
しかし、それは自意識過剰な思い過ごしで、
彼の孤独感が生んだ幻想であった。
アール氏は虚しさを滲ませながら歩みを進めた。
落ちぶれているとはいえ、近代化が進んだ街であることに変わりはない。
こうして街の景色に意識して歩いて見ると、
緑や昆虫は絶滅してしまったのではないかと錯覚に陥る。
整備された道路に、定位置に置かれたゴミ箱。
それでも街にはゴミが溢れていた。
いくら備品があろうと、それを気にとめる人が誰一人いないのだ。
秩序とは群衆の上でのみ成り立つ。
自分の時間を犠牲にしてまで、少数派に回ろうと考える者はいない。
誰だろうと同じことだ。
彼がそれを無視をしたところで、咎める者などいない。
誰だって、利益にならないことをやりたくはないのだから。
最初のコメントを投稿しよう!