【いつかの空】

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一歩外に出ると、そこは灰色の世界。 アール氏はまた、溜息をついた。 そこは見渡す限りコンクリートの街だった。 そのコンクリートの上に建物が蟻の群れのようにびっしりと横たわっている。 昔は賑わっていたこの街も、 数年前に治安が悪化したのを境に廃れていった。 落ちぶれ、活気を無くしたこの街は、人間の腐った臭いがする。 アール氏が出不精になった理由はこのせいでもあった。 休日にも関わらず静かな街。 街が荒廃しているためか、それを包む空も灰色に霞んで見える。 アール氏は不意に、少年時代に見た澄んだ空が恋しくなる。 何にも染まらない、あの純粋な空が。 その時、花屋の店先に立つ美しい女性が、 彼に笑いかけたように見えた。 しかし、それは自意識過剰な思い過ごしで、 彼の孤独感が生んだ幻想であった。 アール氏は虚しさを滲ませながら歩みを進めた。 落ちぶれているとはいえ、近代化が進んだ街であることに変わりはない。 こうして街の景色に意識して歩いて見ると、 緑や昆虫は絶滅してしまったのではないかと錯覚に陥る。 整備された道路に、定位置に置かれたゴミ箱。 それでも街にはゴミが溢れていた。 いくら備品があろうと、それを気にとめる人が誰一人いないのだ。 秩序とは群衆の上でのみ成り立つ。 自分の時間を犠牲にしてまで、少数派に回ろうと考える者はいない。 誰だろうと同じことだ。 彼がそれを無視をしたところで、咎める者などいない。 誰だって、利益にならないことをやりたくはないのだから。
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