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唐突に夢から覚めた。
不思議と内容はまったく思い出せないが、とても悪い夢だ。
体は石のように重い。
かろうじて自分が今堅い床に寝転がっている事だけは認識できるが、瞼を開けるだけの力がない。
意識はそれくらい遠くに感じられた。
(ここは何処だ…)
前にも泥酔の果て、こんな風に記憶を手放した事がある。
その時は、目覚めたら警察だった。
(…一体何がおこったんだ)
朦朧と自問を繰り返していたら、突然冷たい水が顔面に降りかかった。
「…ッ冷た」
「おい関(せき)!!起きろ!」
氷の粒が頬を撫でて転がった。
続いて、瞼の裏に派手に火花が散る。
口の中に血の味が広がって、後から痛みが押し寄せてきた。
「…正嗣(まさつぐ)?」
ようやく薄く開いた目が、睫毛越しに古くからの友人を捉えた。
いつも穏やかに笑っている印象のその表情は、怒りに歪んでいる。
実はまだ目覚めていなくて、悪い夢の続きを見ているのだろうか。
「…正嗣、どうした…?」
途端に、二度目の激痛。
今度は直ぐに痛みと理解した。
これが夢ではないと体に叩き込まれる。
「…お前!自分が何したか覚えてないっていうのか!!」
首もとを掴まれて揺さぶられながら、関は周りを見渡した。
馴染みの居酒屋だ。
そういえば、仲間を集めてここで飲んでいたはずだった。
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