季節柄の日常。

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木枯らしの風は元気に飛び回り、春一番はまだ来ないよと知らせてくれる。張り終わったテントをバタバタと揺らし、街の北から南へ駆け抜ける。 ゆるゆると歩調を合わせながら、馬車連れの団体が街の南の入口を通り抜けた。 「こんにちは、素敵な娘さん。こんにちは、逞しいお父さん。こんにちは、美しいお母さん。今日と言う日はまだ落ちません、その前に宿を二部屋お借りしたいがご存知ない?」 馬車を連れたシルクハットの紳士が、祭の準備で大慌てな大人達に話し掛ける。 誰ともなく、ゆっくりとした声で、彼に宿の場所を指差しながら答えた。 まだ、部屋は随分空いているよ、と。 「サンキュー、マイ、トワイライト。」 そう答えた後に、紳士は馬車を引き連れて宿に向かい進行する。 彼等を見送ると、大人達は冗談めかしながら「楽団でも呼んだのかい」と話し、作業を再開した。 ―――カツ、カツ。 ドアをノックする音に、宿の主人は空いてるよ、と返事をする。 扉を開けた紳士は、馬車一台の入る小屋と部屋を二つお借りしたいと申し出て、相応の金銭をカウンターに散らばせる。 眉を一度浮かせた主人は彼に鍵を二つ渡し、こう告げた。 「丁度二階の端部屋二つが空いてるとも。馬車の世話はしておくよ、ごゆっくりと。」 紳士は笑顔で鍵を受け取った。
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