季節柄の日常。

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宿の入口を潜るローブ姿、男とも女とも見ただけでは判らない程にゆったりとした作りで、フードが顔を見事に隠している。 紳士に手を取られ、キシキシと鳴る階段をゆっくりと上る二人。 主人はそれを眺めた後に、馬の世話をしようと外に出た。 「ここが今日の部屋だ、マイ、スター。右がボク、左が君。これが鍵。こっちはボクのだ、それじゃあ後でね。」 そう説明すると、紳士は端から二番目の部屋に入っていく。 残されたローブ姿も説明を理解しているのか、宛がわれた部屋に姿を消した。 ―――「ダメよマイリス!そこはあたしの陣地よ、貴方にはまだ早いわ!」 「いいやミーリル、これでいいのさ。君のキングは裸の王様じゃないか。それだから僕に勝てないんだ。」 小さな身体のフェアリーが、自分の身体程の駒を抱えて盤面を動かす。 少女の陣地には、自分のキングの駒以外、フェアリーの【要するに敵の】駒が溢れ返っていた。 「あー!また一歩足りない!マイリス、貴方、手加減してって言ったでしょ!」 「戦争で手を抜いたら僕が負けるじゃないか。ミーリル、世界を知らないのかい?」 クスクスと笑いながら、フェアリーはヒラヒラと飛び回る。 陣取りゲームに負けた少女は、盤上の駒をがしゃんとかき集めた。 「あたしは“タイキバンセイ”なのよ、レディに対して随分な物言いね!」 「どこがレディさ、それに僕等フェアリー種にはレディもジェントルもないんだよ。残念だったね。」 ふんっ、とそっぽを向いた少女の肩にフェアリーは停まる。 はらりはらりとフェアリーの羽から細かい粉が舞い落ちた。 「ところでミーリル、一つ聞くけど今年は君のパパやママはどうするんだい?」 フェアリーの言葉に少女は髪を弄りながら、肩のそれに目も向けずにボードの片付けを始め、そして答えた。 「理髪店だって。あたしは手伝える事があまりないから、今年は色々回ろうと思うの。マイリスもそうする?」
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