季節柄の日常。

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パタパタ走る少女は、大人達の邪魔にならない様に、まるでダンスでもしているかと言う様に人混みを器用にかわしていく。 顔見知りのお兄さんやお姉さんに頑張ってと声をかけ、おばさんやおじさんにはお疲れ様と声をかける。 バレリーナでも見ている気分になりながら、大人達の作業はこつこつと進んでいく。 「あら?綺麗な帽子!とても素敵ね!」 ふと少女の視界には一人の紳士が、ご自慢のシルクハットを被りながら歩いているのが移った。 屈託のない笑顔を紳士は受け入れ、こう答えた。 「サンキュー、マイ、フェアレディ。君はボクのセンスに共感してくれる貴重な存在だ。」 シルクハットを手に取り、畏まった一礼を少女へ向ける。崩れない笑顔を見るや、少女は思い、口に出す。 「えぇ、でも貴方、とても寂しいお顔をするのね。なんだか枯れた木の葉を見ている様だわ。」 「娘さん、君はどうやら純粋無垢なのだね。恐らくこの先、とても汚れた世界を知るだろう。それでも君にはそのままで居て欲しい。名前を教えてくれないかい?」 「私はミルリーデイル!みんなミーリルやミリーって呼ぶわ!帽子が素敵な貴方はなんてお名前なの?」 「ボクはただ一人のジェントル、崩れない均衡を保つ劇団の紳士さ。名前はないよ、ボクを呼ぶ時はパペッターと呼んでおくれ。」 「パペッター?不思議な名前ね!なんだか呼びにくいし、そうだわ!パピィって呼んでいい?それとも犬みたいで嫌かしら?」 「いいとも、覚えておくよ。ボクを呼ぶ声が聞こえたら、ボクはどこからでも現れる。気軽に呼んでおくれ。」
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