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少女と紳士の邂逅は幾つかの言葉を交わした後に過ぎ去り、ミルリーデイルはそのままの足で両親の準備する屋台に向かう。
パペッターはひらひらとシルクハットを振ってミルリーデイルを見送ると、祭の準備に忙しい街の散策を始めた。
―――「…。」
鎌首を擡げて、覗き込む視線。鋭い形の眼窩に嵌め込まれた黄色の眼球が、一点をじっと見据える。
白い鱗に覆われた巨躯を支える四本の足、一対の大きな翼。そこに居座る竜は、退屈そうにしていた。
「グルーミー。お前、その視線はやめろと何度言わせるんだ。」
その隣にまた、居座っている竜はまるで同じ形をしていて、違うのはただ、身体の色が黒と言うだけだった。
「ああ済まないブライト、君は嫌いだったね。この私がただ、ぼうっと世界を眺めるのを。」
白竜が答える。肩を竦める様に、翼をより折り畳んでみせた。やれやれと呟いて、地に首を這わせた。
「そのまま滅ぼされた世界をもう一度作るのは俺なんだ、壊さないと誓うなら別に嫌わんよ。」
黒竜がふんっと鼻息を鳴らしながら告げる。ばさりと翼が大きく揺れた。
壁も天井もない、二匹以外に何もない空間はひたすらにだだっ広く、故に家屋何十個分もある身体が二匹も居座れる。
「ブライト、その約束は出来ないな。だから私は眠るとしよう。暇は眠る事で解消出来る。」
そっと瞳を閉じる白竜を見て、黒竜もまた、首を這わせて瞼を閉じた。
亜空間。
この世ではなく、あの世でもない。
世界のどこかから通じ、世界のどこかへと通じる、また別の世界。
二匹の竜はいつからか、そしていつまでもそこにいる。
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