神無き世界

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 機械の発達はそれまで神が行い与えていたとされる、創造と破壊、幸福と安息、再生と誕生を統制・制御し、具体的に見える形にした。  人は神を否定しなかったが、その存在を尊び敬うものは、機械が発達するほどに消えていった。  そして、機械文明が頂点に達したそのとき、神は消え去り、彼による倫理も消えた。  それが意味したのは、人類を束縛し肯定するものの消失、即ち、暴走の始まりである。  人は神によって抑えられていた狂気を爆発させ、欲望に忠実に、利己私欲のためだけに動いた。  崩壊した徳性は倦怠と背徳をもたらし、緩やかな破滅へと導く。  また、時を同じくして、喧騒や哄笑が虚しく混沌に呑み込まれ、重たい頽廃の空気が闇に淀む不気味な静寂が訪れた。  神が消え去り、静かになった世界で人が失ったもの、それは善性や理知、そして、人自身であった。
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