南心地

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 髪を掻き分け、静かに耳を澄ます。人々の賑やかな声を掻い潜って、海の漣の音が新一の鼓膜を優しく振動させた。  ふと、何かに思い当たり、新一はたくさんの海の家が立ち並ぶ方へと歩き始めた。ちりちりと、歩く度に足の裏が熱くなった砂によって焼かれる。 『南心地』という名前の、ひときわ客の多い海の家に着く。南国風の雰囲気で、開放感に溢れたこの店は夏の雑誌に大きく記載された有名店である。  新一はカウンターに行き、慣れた言葉で缶ビールを一本注文する。すると、すぐにそれは手渡された。金も払わずに、新一はその缶ビールの口を開け、それを一気に飲み干した。  キンキンに冷えたビールが新一の喉を遠慮なく通る。ゴクリ、と、この暑さによって渇いた喉をビールが潤し、何とも言えない快感が込み上げてきた。クーッと、その快感を表へ露にし、鳥肌が立つにつれて体が冷えていくのを感じる。最高の場所で最高の飲み物を頂くというシチュレーションに酔い、今までの嫌なことを忘れることが出来るような気がした。
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