66人が本棚に入れています
本棚に追加
「…何処だ、ここ。」
見知らぬ土地で彼女は呟いた。
剣道で着るような胴着を身に付け、左手には竹刀。
髪は高い位置で後ろにくくり、凛々しい顔立ちも今は間が抜けている。
彼女の名は望月音。
年は数え年でいうと17。
「えーと…?」
そんな音は周囲に目を泳がし、状況を理解しようと頭を働かす。
顎に手を添え、まずはここが何処なのか考えてみた。
周りにあるのは木。
何処を見ても木。
あれ、と頭を捻った。
…ここは…見覚えがない…?
今、自分が立っている場所は記憶に無い。
ますます分からなくなるこの状況に彼女は顔をしかめた。
「どうゆうこと…?」
疑問を口に出してみるも、答えてくれる人はいない。
音は頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。
どうして…?
一体、何が起きたというのだろう。
自分はただ、家で竹刀を振っていたはずなのに。
座り込んだ音の体を柔らかな風が包み込み、木の葉を揺らした。
サワサワと流れる風を肌で感じながら、妙に現実味溢れるその感覚に目を閉じた。
「…………。」
――――それは、唐突に起こった。
もはや考える気力さえ失い時の流れに身を任せていた音に、
『ねえ。』
そんな声が聞こえたのは。
「…!?」
まるで、今まで傍にいたかのようにその声はすぐ近くで聞こえた。
音は伏せていた顔を上げ、激しく辺りを見回す。
彼女の目には何も写らなかった。
あるのは先程見た景色と変わらない、ただそこにあるのは木々の群れ。
「聞き間違い…?」
何処を見ても変わらない。
ついに幻聴まで聞こえてきたのか…、とうんざりしていると、
『ねえ、聞こえてるんでしょ?』
先程と同じ声が響く。
「えっ…。」
幻聴ではない。
音は確信し、再度辺りを見回すが姿が見当たらない。
最初のコメントを投稿しよう!