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得体の知れない何かの存在を感じ、音は素早く立ち上がった。
持っていた竹刀を強く握り締めもしもの時に反撃できるよう気を張る。
『まあまあ、そんな構えないでよ。別に何かをしよう、ってわけじゃない。』
声は楽しそうに笑うが、音の構えが緩くなることはない。
ただじっと声の聞こえる方を見て、顔をしかめている。
音の態度は声にとってかなり面白かったらしく、笑いを噛み殺したような声が響き渡った。
「……アンタ、誰…?」
一通り笑いがおさまったところで音は問い掛けた。
人の気配がないのに聞こえる不思議な声。
いや、無いわけではないのかもしれない。
意識を研ぎ澄ませれば確かに“それ”はそこにいる。
だが“それ”の持つ気配は異質だ。
例えるなら…人であって人でないような…極端にいうなら神々しい。
悪意、敵意は感じないが、今自分がここにいる原因を作った者かもしれない。
それが人でないなら尚更。
例えそれが何であっても、そうならばこいつは自分の味方、とはいえない。
『僕…?…うーん、そうだなあ…。神、とでも言っておくよ。』
「神……?」
わけが分からない。
音は顔に困惑の色を見せ、目を泳がした。
「…ここは…何処…?」
もし、本当に声が神と呼ばれる者ならそれと会話をしている自分は何なのだろう?
不思議な感覚に音はますます混乱する。
『えーとね、何て説明すればいいんだろ。』
困ったような笑いを含みながら声は音にとって衝撃的な答えを紡ぎだした。
『ここは1861年の日本で場所は京都だよ。』
「……………は?」
音は瞠目する。
『それと、君死んだから。』
「…!!」
何でもないことのように淡々と述べる声に音は開いた口がふさがらない。
しかも、内容がけっこう衝撃的。
「………。」
彼女は竹刀を握り締めていた手の力を抜き、考え込むように目を閉じた。
ここまではっきり言われると、自分の身に何が起きたのか、何故この場所にいる経緯を覚えていないのか、無理矢理にでも思い出さなければならない。
思い出すことに多少の恐怖はある。
…もし、声の言った通り自分が死んだのならば…、
記憶が無いのも辻褄があっている。
所謂、その時のショックで、というか…。
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