二枚目

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「あ……」 肩口で揃えられた整然たる黒髪。人形みたいな白い肌。触れば壊れてしまいそうな華奢な体つき。全てを見透かしていそうな真紅の瞳。 その儚さとは対照的にナイフを持っている手には無駄のない力がこめられている。そのアンバランス差が、いっそう彼女を神秘的にさせているように感じた。 見とれた。あの少女に。アリアと男共が何か言い争っているが全く耳に入らない。ここには自分と彼女と彼女が手にしているナイフだけしか存在していない気さえした。 カメラを構える。俺に気がついた彼女が此方に視線を送る。俺はシャッターを切った。一瞬、彼女は笑ったような気がした。 「……は?」 「ちょっと、ライ!?何してんのよ!?」 カメラのシャッター音に気がついた男共の視線が一斉に此方に向く。そのイライラした表情を鑑みるに、女の子によってたかって絡んでいたのをおちょくられたと受け取ったのだろう。 普段押さえ役に回っている俺の予期せぬ行動にアリアも面食らったのか珍しく狼狽していた。 こういう表情は大概自分の自尊心にも少しは恥ずべき心がある時に起きると俺は思う。ならやらなきゃいいのに。しかし幸いと言うべきか、彼女に向いてた意識は俺に向けられたようだった。 「てめぇ、なに撮ってんだゴラァ!ケンカ売ってんのか!?」 「なめんなよゴラァ!」「殺すぞてめぇ!」 グループのリーダーらしき人物に続いて、男共が罵詈雑言の嵐を俺に浴びせる。俺は暫く黙って聞いていたが、一分もしない内に聞くに耐えなくなった。なんとまぁありがちな台詞なのだろうか。 この、世界中捜しても何処にもいないであろう雰囲気を纏う彼女を相手にするには本当にどこにでもいる不良は役不足も甚だしい気がする。その愚かさにも似た物に俺は無性に腹がたってきた。 「あぁゴメンゴメン、勘違いさせちゃって」 「勘違いだぁ?」 言ってる意味が解らないといった不良共に俺は。 「お前らなんて一ミリもフレームに入れてねーよ。よってたかって女の子にたかりやがって。お前らの存在なんて彼女の存在の塵にもならない。死ねばいいと思うよ?てか死んでくれる?」 笑顔で言ってやった。ダイレクトになじられた男共は完全に頭にきた様子だ。 「やっちまえ!」 そして俺に襲いかかってくる。予想通りというべきか、掛け声までありがちであった。ある意味期待を裏切らない奴等だ。
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