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菜々瀬は膝に唇を沈めた。
そのまま動かない。
「…いいよ!明後日とそん次な」
「…いいの?」
「良いけど、お前が無理すんなよ。何が出るか分かんないからな」
((とは言ったものの…))
((夜の海ってのは、怖い、恐ろしい、もんだなぁ。あいつは本当に来れんのかなぁ。変なやつに出くわしてなきゃいいが…))
辰也のギターが音をたてる。
菜々瀬に渡された楽譜の始めである。
音は暗闇に冷たく響いて、波に飲まれて消える。
近くに立っている街灯のおかげで、弦の位置はなんとか分かる。
楽譜はほとんど見えていない。
ふいに気配を感じて振り返ると、菜々瀬が立っていた。
「大丈夫だったのか?」
菜々瀬は頷いて、その場に座ってしまった。
辰也からは少し離れている。
辰也は少し疑問に思ったくらいで、また話し始めた。
「あ、この楽譜、一通り弾けるようになったよ」
「『風の想い』?」
「そ。菜々瀬が好きなヤツ」
「聞かせてもらえる?」
「おぅ」
辰也の指が音を刻んでいく。
とても静かに。
菜々瀬は膝をぎゅっと抱えた。
全く口を動かそうとしない。
((気に入らないのかなぁ…やっぱり))
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