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半ば適当になって止めようとしたとき、菜々瀬は顔を上げた。
「そこまで?」
「…いや…気に食わないかなって思って…」
「ううん。そんなことない」
「どこから弾こうか…」
「Cの手前から」
「…C?」
「楽譜に書いてある」
「暗くて見えないんだよ」
そういうと、菜々瀬は辰也の隣にあった楽譜に向かった。
楽譜を見下ろしながらしゃがみこむと、四つん這いになってページをめくった。
それを微笑みながら見ていた辰也は、ふと、菜々瀬の着ているシャツの袖に目線を落とした。
手首の少し上から肘にかけてが他とは違う色をしていた。
ハッとして菜々瀬のほうを見た。
よく見ると、左の頬に擦ったような傷があった。
「…ここだよ。うーんと、このリピートの……」
顔を上げた菜々瀬は言葉をなくした。
辰也はしかめっ面でこちらを見ている。
少しの沈黙の後、思い出したように腕を押さえ、パタンと座った。
目はいつになく泳いでいた。
「どうしたんだよ、それ」
「…転んだの」
「菜々瀬!」
菜々瀬はビクッとして顔を上げた。
「嘘なんてつかなくて良いんだから。言いたくないならそう言えば良いだろ?」
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