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菜々瀬は肩の力が抜けて、キョトンとした。
「…怒らないの?」
「怒られたかった?」
「ううん」
辰也は言いながら、菜々瀬の腕をとった。
シャツの袖を捲り上げた。
「うわっ。すんげぇ傷!よく我慢できたなぁ…」
「うん」
そう言った菜々瀬は涙目だった。
「バカ」
「…だって、痛いんだもん」
菜々瀬とは対照的に辰也は笑みを漏らした。
「5分くらいここで待ってられるか?」
「うん」
「今、家から薬とか取ってくっから」
辰也は走り去った。
菜々瀬は腕の痛みに顔をゆがめていた。
風はだいぶ冷たくなっていたし、海の音は大きくなっているように思えた。
菜々瀬は辰也が来るまでの間、風だけでもどこかで凌げないかと立ち上がり、近くにあった小屋の裏側に回りこんだ。
腕の傷を気にしていると、突然、顔に光が当たった。
同時に声が上がった。
「菜々瀬!」
「いたぞー!!」
「どうしてこんな所まで…!!すごい怪我してるじゃないか!」
「二階から飛び降りるからだぞ!何かあったらどうするつもりなんだ!」
「さぁ、行こう」
菜々瀬は引かれた腕を引き返した。
「菜々瀬!」
「あと5分でいいの」
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