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((それなら、13日のに…))
神屋という名前は無かった。
「…なんでだよ…」
((探すなってことなのか…?))
そんな言葉は足にまでは届かなかったらしい。
その足は住宅街に達した。
表札のひとつひとつを確かめながら町内を駆けずり回っていた。
歩いて、歩いて、走って、歩いて、走って、走って、走って…。
ちょうど町内を一周しきったところで、陽が沈んでしまった。
結局"神屋"という表札は見つからなかった。
それどころか、"神屋"の"神"の字だってありはしなかった。
辺りはまだうっすら明るく、西の空はまだ赤く染まったままであった。
(("神"に見放された…か))
アスファルトを力なく歩いていた。
風は無く、暖かい。
足は波の音のする方へ進んでいった。
どんなに近づいても、静かな波の音だった。
浜の上には辰也のギターがあった。
楽譜と並んだままである。
おもむろに拾い上げて砂を掃うと、しばらく嫌なくらいに静かな波を聞いていた。
目に映るのは、ただただ広い海だけだった。
雨雲で空が覆われているなど気づくこともできないで…。
次第に風は強まり、波は荒れ始めた。
空が大粒の雨を落とした。
辰也の頬を雫が伝った。
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