【1章】始まりの海

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辰也(シンヤ)はこの海の近くに住んでいる高校生である。 高校生と言っても、ついこの間、入学式を迎えたばかりのホヤホヤだ。 制服が中学校と同じ学ランだった所為か、まだ高校生だという実感がない。   そして、いつもの様に浜辺に来るのである。 春先の海はあまり気持ちの良いものではない。 潮風が身にしみる。 それでも辰也は何かに操られるかのようにここに来てしまうのだ。 その所為か、何か異変があるとすぐに気が付くのである。   ―そして今日、異変を見つけた。     いつもの岩場に着き、一番高い岩の頂上にいつものように座った。 昨日の雨で少し波が高かった。 浜には昆布とか流木とか、それに紛れてゴミなんかも打ち上げられていた。   よく見ると、その漂流物の間を上手く避けた小さな足跡が見えた。 足跡は岩場の脇から浜をくねくねと進んで、どんどん海に向かっていく。 それは波打ち際で波に洗われていたが、足跡の主はすぐに知れた。 薄手の白い長袖のワンピースに裾の広い白のズボンをまとった女の子だった。 手には一本のギターを持っていた。 ((あの子、ギター弾きに来たんだなぁ)) そんなことを考えてただボーッと眺めているとその子は思わぬ行動に出た。
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