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辰也は思わず身をのり出してその様子をうかがった。
女の子はギターを浜に置いて、ギターの上から砂を落としているのである。
クラシックギターらしく、砂は中央の穴の中にどんどん入っていく。
((おいおい))
辰也は思わず立ち上がり岩場を駆け降りた。
辰也は趣味でギターを弾くことがあったので、いてもたってもいられなかったのだ。
辰也が砂浜に足を付け、2、3歩進んだ頃、女の子は立ち上がり、ずっしりと重くなったギターを抱え、ズボンの裾が濡れるのも気にせずに海に入っていった。
辰也の足が駆け出した。
女の子は波が膝までくる所で立ち止まると、どこまでも続く海を眺め目を伏せた。
そして、静かに目を開くと突然ギターを力一杯放り投げたのだ。
「何やってんだよ!」
女の子は体勢を崩して海の中に身を落とした。
慌てて駆け寄った辰也は、少し靴が濡れたくらいの所で足を止めた。
彼女は意外にも冷静であった。
すぐに立ち上がり、髪を少し直したくらいで辰也の方を振り返った。
辰也と同じくらいの年であるように見えた。
何も言わずにじっとこちらを見ている。
「何であんな事したんだよ」
さっきとは対称的に低い声で言った。
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