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「ギターのこと?」
細い可愛らしい声がそう尋ねてきた。
辰也はうなずいた。加えて
「何で捨てたんだよ」
「何で捨てちゃいけないの?」
「お前なぁ…」
言いかけて止めた。女の子が急に表情を曇らせたのだ。
少し俯いてから、水平線に向かって言った。
「お兄ちゃんはギターを弾いてたけど、私が生まれてすぐ車の下で死んじゃった。お母さんは私の病気でノイローゼになって頭がおかしくなっちゃって、ビルの屋上から間違って落ちて死んじゃった。お爺ちゃんは戦争で死んじゃった。お婆ちゃんは生きてるけど、ベットの上で眠ったまま。お母さんの方のお爺ちゃんとお婆ちゃんはお母さんが小さい時に火事で死んじゃってる。お父さんは昨日、釣りをしてたら海に落ちて死んじゃった。お父さんは上手にギターが弾けたけど、私はギター弾けないの。もう誰もギターを弾いてくれないから、もういらなかったの。でも、お父さんはギターが大好きだったから、海に沈めてあげることにしたの」
何も言えなくなって少し黙り込んだ。
((とんだ境遇の子と出会ったもんだ…))
ただ、そう思った。
できれば、あまり関わりたくないとさえその時は思っていた。
…はずだった。
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