33人が本棚に入れています
本棚に追加
辰也の口はもう言うことを聞かない。
「お前の親父がどんだけ上手かったか知らないけど…オレも弾けるぞ、ギター」
そこには目を丸くして、口をあんぐりと開けた子供同然の女が立っていた。
辰也はその顔を見て
((何が28だょ…子供じゃねぇか))
と思った。
自然に笑みをこぼして…。
それとは裏腹に、女の子は顔を歪ませて頼りない歩みで近づいてくる。
何かつぶやきながら。
辰也に手が届く所まで来たころには、頬が涙で濡れていた。
彼女は辰也の腕をつかまえると、膝を砂に沈めた。
「ぉ、おい!」
しゃがみ込んだ辰也が耳にした言葉。
「…神様はいたんだ…お父さん。…神様は本当に海にいたんだ…」
何があったかは知らない。
だけど、守らなきゃならないんじゃないかと初めて思った。
これが、全ての始まりだった。
最初のコメントを投稿しよう!