【1章】始まりの海

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辰也の口はもう言うことを聞かない。   「お前の親父がどんだけ上手かったか知らないけど…オレも弾けるぞ、ギター」   そこには目を丸くして、口をあんぐりと開けた子供同然の女が立っていた。 辰也はその顔を見て ((何が28だょ…子供じゃねぇか)) と思った。 自然に笑みをこぼして…。 それとは裏腹に、女の子は顔を歪ませて頼りない歩みで近づいてくる。 何かつぶやきながら。 辰也に手が届く所まで来たころには、頬が涙で濡れていた。 彼女は辰也の腕をつかまえると、膝を砂に沈めた。   「ぉ、おい!」   しゃがみ込んだ辰也が耳にした言葉。   「…神様はいたんだ…お父さん。…神様は本当に海にいたんだ…」   何があったかは知らない。 だけど、守らなきゃならないんじゃないかと初めて思った。   これが、全ての始まりだった。
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