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それから、三日後の事だった。
番頭の作造が慌てた様子で、母屋で晩飯を食べている喜一郎の側に駆け寄った。
作造は喜一郎の耳元で囁く。
と、同時に、喜一郎は勢い良く立ち上がった。
『サブロウは離れに居るんか!』
『あっ、はい』
喜一郎は浴衣の帯を締め直すとスタスタと歩き出す。
三郎たちが食事をしている離れに着くと、障子を勢い良く開けた。
そして、その勢いのまま三郎の前に立ちはだかり、晩飯のお膳を蹴り払った。
横に座っていた健太に味噌汁がかかる。
正面に座っていた良男が茶碗を持ったまま唖然としていた。
三郎は里子の事が喜一郎に知れたと悟った。
『貴様!』
喜一郎は三郎の胸ぐらを掴むと無理やり立たせた。
『オイ!』
『はい……』
『どういうことじゃ!』
『……』
『何とか言わんかい!』
喜一郎の拳が三郎の頬を捉えた。
よろめく三郎。
更に喜一郎の踵が三郎の脇腹を捉える。
三郎は勢い良くそのままひっくり返り襖に頭を叩きつけた。
『今すぐ荷物まとめろ!この恩知らずが!』
『……』
健太と良男は部屋の隅で三郎の行く末を見守っていた。
障子の間から番頭の作造が『ホンマどうしようもないヤツやで』と、喜一郎の片棒を担ぐ。
三郎は口から流れ出る血を拭いながら、土下座した。
『好きなんです!』
『……』
喜一郎は三郎の前に腰を下ろし、三郎の顎を片手で握り上げた。
『オイ、百姓の貧乏人……。良く聞けや、貧乏人の奉公人は一生雇われて終わりじゃ、そんな貧乏人にわざわざ大事な娘を差し出す訳ないやろ、お前ら貧乏人は一生ワシらに仕えとったらえぇんや』
『……』
『兎に角、お前はたった今!クビじゃ出て行け!』
大声で三郎を怒鳴ると拳を力いっぱい三郎の頭目掛けて振り下ろした。
その勢いに三郎は顔面を板の間に叩きつけられた。
三郎の口と鼻から血が滴り落ちる。
『好きなんです!』
三郎は立ち上がった喜一郎の足首を掴んだ。
『何さらすんじゃ!』
三郎の顔面に蹴りを入れた。
うずくまる三郎。
顔中が血で染まり、板の間にポトポトと滴り落ちる。
番頭の作造が首に巻いていた白い布地の手拭いを、首から外すと血のついた喜一郎の足の甲を素早くふき取った。
健太と良男はどうすることも出来ずに、部屋の隅で小さくなっている。
『お父様! やめて!』
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