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夏の日差しが三人を容赦なく照らす。
ギラギラと眩しい日差しに眉を細めずにはいられなかった。
全身から汗が吹き出てくる。
三郎の白い汚れたランニングシャツは滲んだ汗でボトボトだった。
そんな汚れたランニングシャツとは対照的に純白のワンピースを纏った里子は一層眩しかった。
『どうも…』
三郎は里子にぎこちない挨拶をした。
里子は軽く会釈をするだけだった。
『なんだ、お前ら顔合わすの初めて?』
三郎と里子は同じタイミングで頭を下げる。
『そっか、俺の妹のサトコ』
『あっニホンマツ、サブロウです』
三郎は里子に頭を下げながら麦藁帽子を取った。
『プッ……』
里子がクスクス笑う。
『……』
三郎は里子が何で笑っているのか解らなかった。
『サトコ、どうした?』
兄の進が不思議そうな顔をして尋ねる。
『ううん、何でもないよ』
クスクス笑う里子。
里子は三郎の名字の聞き慣れないニホンマツ(二本松)に可笑しさを堪えていた。
『変な奴だなぁ、じゃあサブロウくん後は宜しく』
『はい』
深々と頭を下げる三郎。
上目使いに里子を見た。
里子はペコっとお辞儀をして進とその場を後にした。
〔何が可笑しいんだ?〕
三郎は自分の身なりをキョロキョロ確認する。
〔どこも可笑しいとこなんてないし、変な子だ……けど、キレイだったなぁ〕
三郎は後ろを振り返り、里子の後ろ姿が見えなくなるまで追いかけた。
容赦なく、ギラギラ照りつける陽射しが地面に反射して、陽炎が里子の姿を遮った。
ーーーーーーー
『なんや私はお嬢さんだったんですのやなぁ』
里子は麦茶を飲みながら、遠くに見える尾根を見つめいた。
『そうみたいですね、その頃はまだ18歳です』
『昔過ぎて、忘れてしもうたわ』
三郎は急に熱くなる目頭を、まばたきで誤魔化した。
『続きを読みますよ』
また、白紙のページを捲り始めた。
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