Prologue

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  ――――現在より三十年前 1981年6月29日―――― まだ本格的な夏ではないのに、酷く蒸し暑く感じる。 ちらりと傍らの我が子を見遣る。 俯き加減で顔は見えず、しっかりと私の右手を握って離さない。 「折角遊園地に連れてきてあげたんだから、もっと楽しそうにしなさい。」 毎日毎日駄々をこねるから連れて来てやったというのに、どのアトラクションにも乗らず、ベンチに座ったままだった。 その態度が気に入らず、思わず眉間にシワが寄り、口調がきつくなる。 それを叱られたと感じたのか、我が子は更に俯いてしまった。 表情こそ見えないが、恐らく今にも泣きそうになっているのだろう。 「あの観覧車に乗って帰りましょう。」 私は小さな溜息と共に言い放ち、無理矢理我が子を立たせて手を引いた。 我が子は何の抵抗も無く寄り添って付いて来た。  
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