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蝉が短い一生を謳歌する季節だった。 俺は入院していた。 心臓が悪かったらしい。 夏のある日遠くから俺のいた病院に女の子が来た。 長くなるから省略するけど俺はその娘と仲良くなった。 二人で病院を抜け出したりもした。 俺はただただ、今その娘としたい事を必死に考えて、それを実行し続けた。 彼女は蝉だった。 俺も蝉だった。 地球の歴史から見れば人類の歴史なぞ、蝉の一生より短い。 人類の歴史から見れば俺の一生なんか、蝉の一生より短い。 俺の一生から見れば君と一緒の時間も蝉の一生よりも短い。 俺はその夏本気で蝉の真似事をした。 俺は蝉になりきれなかった。 でも彼女は一人、蝉になりきりやがった。
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