涙色

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「あ、今何してた?」 不器用な声が耳に届き目頭が熱くなる 早く電話を切らないと 「寝るとこ」 ぶっきらぼうに答えるから空気を読んで 「ごめん」 酷く落ち込んだ声にチクリと罪悪感 重たい空気 「今日は」 確信に触れないで 聞きたくない。言い訳も現実も聞きたくない 仁さんの声が優しく俺の名前を呼ぶ 涙が零れる 仁さんの声が辛そうに震えるから俺も辛くなる ねぇ、なんでそんな悲しい声を出すの? 「泣かないで」 泣きそうなのは仁さんもでしょ 「会いたい」 どんな顔してどんな言葉を作ればいい? 言葉が出てこない 俺の言葉を待ち電話越しでも伝わる緊張感 分かんない 会いたい気持ちと会うのが怖い気持ち どちらが優勢? 言葉を紡ぐ前に通話終了ボタンを押し携帯の電源を切る 「遅い」 手遅れなんだ 独り呟き携帯をベッドに投げ捨てる 仁さんの笑った顔が好き いつの間にか呼び捨てにされていた「楓」って呼ぶ声が好き 子供見たいに甘えたり拗ねたりする表情が好き あぁ、落ちてんじゃん 好きだと意識した瞬間に胸が痛み涙が溢れだす 今更気付くなんて遅すぎた 激しい雨音に耳を傾け瞼を閉じた
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