涙色

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「もしもし」 電話機から聞こえる愛しい人の声なのに凄く距離を感じた 「あ、何してた?」 「寝るとこ」 今すぐに電話を切りたいと遠回しに告げられる 「ごめん」 重たい空気 続く沈黙 「今日は「聞きたくないんで」」 言葉を伝える間もなく遮断され息が止まる 「聞きたくない」 呟くように告げられた声は酷く弱い 電話越しでも伝わる楓の傷付いた表情と俺を拒絶する空気 「楓」 届かない 「ごめん」 「謝らないでいい」 きっぱりと言い放たれる 「泣かないで」 大好きな人が自分のせいで泣いている 「ふざけんな」 今どんな顔してる?部屋で独りで泣いてる? 「会いたい」 お願いだから 信じろなんて言わないから独りで泣かないで 重い沈黙 時計の音だけが響く部屋 次に耳に届いたのは無機質な通話終了の音 再度かけ直しても繋がらない 完璧な拒絶に頭が真っ白になる 「っくそ!!」 携帯を投げ捨てしゃがみこむ 手遅れ? ふざけんな 今も楓は独りで泣いてる これ以上嫌われたくないのが本音だけど これ以上独りで泣いて欲しくない 自分で傷付けた癖に泣く時は自分の胸で泣いて欲しいなんて 外は俺を笑うかの様に土砂降りの雨 弾かれた様に家を飛び出し楓の家に向かった お願いだから顔を見せて 震える指でインターホンを押した
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