第一話《破滅の呼ぶ者》

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新宿区西新宿にある都庁ビルの近くに建っている年期の入った弁当屋の二階では、少しばかり、いざこざが起きていた。 「待てよ。今日は、俺が入る予定じゃないだろ?」 寝床では、ボサボサの髪を掻きながら、青年が声を上げていた。部屋の前には、若い女性が立っていた。木村真理は、二年前から住み込みで、店を切り盛りしてくれてる女性だった。 「駄目です。鈴木さんが風邪で休み。田中さんは音信不通。本柳先輩しか、出る人が居ないんです!」 「本柳先輩っつーのは止めろ。同じ学校だったらしいが、俺は、お前を見てない。」 真理が言うには、本柳先輩…である本柳武人は、真理が高校一年生の頃の三年生だったらしい。 関東総合格闘大会で一位。全国大会で二位という成績は、地域近隣で噂で流れる。ましてや、それが同じ高校となると、注目の的になるのは当然だった。真理も、その口である。 「大体、音信普通ってなんだよ?」 毛布を蹴って起き上がると、武人は何事もなく近づいた。 裸である。 武人は布団の温もりを直に伝わりたいと、常に裸で寝る癖があった。 だから、「きゃぁっ!」と真理は声を上げたが、武人は気にしなかった。寝込みを襲われてるのは、武人である。 それに、このやり取りだって初めてじゃない。 「た…たっ、旅に出るって置き手紙が!」 真理は、片手で目を塞ぎながら近くのジーンズとトランクスを取ると投げた。武人は、難無く取ると目の前で着替えはじめた。 二十二歳になって、何を慌てる事があるんだろうと、二つ上の武人は首を傾げた。 「…旅ねぇ。確か、この前…田中のオバサマ、旅って言いながらパチンコに居たよな。」 「かも知れませんけど、実際、今は先輩しか居ないんですから!」 ジーンズを履き終わるのを確認すると、真理は二階から引きずり降ろすように武人を一階に連れ出した。 武人は、部屋の去り際に緑色の石が付けられたネックレスが首にかかっているのを、鏡で確認した。 あるのが、分かると押されるままの状態になった。
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