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「わかった、わかった。だから押すな!」
二階から急ぎ足のように駆け降りると、店内には既に何人か客が並んでいた。そのドタバタぶりに客の何人かが振り向いた。
武人は、首にペンダントを巻き終わると、何食わぬ顔をしながらエプロンを巻いた。
時計を見ると、既に昼前である。
「今日も二人元気だねぇ。」
昔ながらの常連客の《前田の老夫婦》が、笑みを零しながらレジに立つと、「シャケ弁を二つ」と、《前田の旦那さん》の方が、武人に向かってピースサインをした。
「あいよ。」
武人が、テンション上げる事なくオーダーの品をストッカーを開けて手にする。
「元気だけが、こいつの取り柄だから。」
そう言いながら、真理に手渡した。レジのストッカーの役周りをする真理に、代金を受け取る武人。そのコンビネーションの良さに、《前田の旦那さん》はニコニコと笑った。真理は、前田の旦那さんを不思議そうに見ながら、弁当の入った袋を《前田の婦人》に渡す。
「武人君の両親も、こんな感じだったわよ。」
受け取りながら、《前田の老夫婦》は二人揃って笑顔を見せた。
「べ、別に、私達は…」
と、真理が否定してる脇で武人は、レジ脇に飾られた両親の写真を見た。
《和洋弁当屋もとやなぎ》は、武人の両親が経営していた店舗だったが、両親は、二年前に死別していた。
両親の結婚記念日に店を休み、家族水入らずで海外旅行へと向かった最中に飛行機が墜落。
一人を残し、死亡が確認された墜落事故により、二人は帰らぬ人になった。
それが、去年の秋の話である。この《前田の老夫婦》は、身寄りが無くなった武人を親身になって励ましてくれた人達だった。
「月日が立つって早いな。」
ボソッと呟きながら、ペンダントを触ってると、真理に身体を揺さぶられた。
「さぁ、捌きますよ!今月、ノルマ苦しいんですから!」
気づくと《前田の老夫婦》は、既に居なかった。
真理が、ノボリを持って店の前に出ていく。客引きという仕事は、愛想よい真理には、うってつけだった。事実、真理が住み込みで働いてくれるようになってから、随分と売上が上がった。
それでも、ノルマが苦しいのは、真理が持つ上昇思考のせいである。
「…にしても、働くねぇ…」
武人は、深く溜息をつきながらレジ業務を淡々と熟した。
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