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この時代とは比べ物にならないくらい悲惨な未来の自然環境。
大概どんよりとした鉛色の雲に覆われ、天体を拝むことはまずできない。
時々、太陽らしきものがぼんやりと見えるくらいで、月は全く見えないのが向こうでは普通と言われる空。
緑は殆ど失われ、稀に見かける草も死にかけのようにしなだれている。
川なんて死体が浮いていたり赤黒かったりと見ていて堪えられたものじゃない。
研究所中には人工で植物が栽培され、小さな川が流れているけど。
「──希道さん?」
「………っ!?」
そんなことを思い出していたからか、その場で足を止めてしまっていたみたいで。
先の角まで進んでいた沖田さんが不思議そうな顔で振り返っていた。
「………ごめん」
謝りながらパタパタと駆け寄ると沖田さんは首を傾げていた。
どうかしたのか、とでも言いたげな表情をしながら。
私は敢えてそれを無視して"広間に行かないの"とこちらも表情で訴えた。
少しの間そうやってじっと見つめあっていたが、不意に沖田さんが顔を逸らし、また広間へと足を進め始めた。
私はそれを、ゆらゆらと揺れる沖田さんの髪を見つめながらついていった。
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