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博士が素直に希道の髪を優しく撫でると、彼女は嬉しそうに目を細める。
「あぁ、会いたくなったらいつでも帰ってこい。
大きな戦の時はそうでなくとも帰ってきてもらうがな」
そう言うと希道は大きく頷いた。
「博士の役に立てるなら」
淡く微笑む希道に博士は微笑み返すと、彼女の背中を軽く叩いた。
希道はその意図に気付くと、ゆっくりと博士から身を離す。
「向こうでも頑張れよ、希道」
「……ありがとう、ございました」
目尻に涙を溜め、身体を小刻みに震わせながらも微笑みを浮かべた希道は、最後にそれだけ言い残すと部屋を後にした。
博士の部屋を後にした希道が向かったのは、此処で過ごしている間使っていた自室。
置いてあるのはシンプルなシングルベッドに折り畳み式の低い丸形テーブル、それに座布団が四枚。
希道の部屋は、この部屋を前に使っていた人の時から置いてあった、必要最低限の物しか置かれていない。
そしてこの部屋に置かれている家具は、彼女が去っても同じように引き続きこの部屋に置かれ続ける。
自分が元の時代に帰って別の人の部屋となったとき、何も置かれていない部屋を使わせるわけにいかないから。
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