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「くっ」
我に返ると、
グシャッ
と音が発つほど、きつく書簡を握り締めていた。
吉川元春は、手元の書簡から、出窓の外に目を移す。
窓外の緑は細雨に煙っていた。
元亀2年6月14日、毛利元就が世を去ったのだ。
稀世の名将は、子の小早川隆景と孫の毛利輝元が見守る中、眠るように息を引き取ったのである。
元春も、何時かはこの事有るを覚悟していた。
75歳という年齢は、むしろ大往生というべきであろう。
それでも、父の最後を看取ることが出来ずに、遠く離れた、異土の戦陣に在るのは、胸中一抹の寂しさを禁じ得ない。
元春は、音も無く葉末を濡らす細雨を、しばし見詰めた。
やがて再び、室内に視線を転じた元春の目は、冷静な戦略家のものに戻っている。
「この事を知る者は、儂の他に誰がおる?」
元春は、傍らに黙して控えている、吉田郡山城からの使番に尋ねた。
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