休戦

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「私はここで失礼します」 村山は一礼すると扉が閉まる。 普通なら側近である村山が席を外す事はないんだろうが私が爺と会う時だけは席を外す事にしているらしい。 フロアの壁が光り出す。魔法と物理耐性を上げる術を村山が遠隔操作で施したのだろう。 爺と私はここで喧嘩をして何度かフロアを破壊しているその対処だと言っていた。 魔術でコーティングされた壁を叩くと波紋が生まれる。 かなり耐性のある術を施しているな。これだけの術が使えるのなら私と同じ隊長格になれるだろうに…… 何故、側近などと地位の低い役職に甘んじているのか…… 「村山さん、望めば隊長にもなれるでしょうにもったいないですね」 ルナ…お前は村山の事は言えない。 10階は総大将の部屋しかなくエレベーターを下りて真っ直ぐの道を突き進めばいい。 税金の無駄遣いもいいとこだ。 ドアの前に立ち見上げると子供の文字で「おじいちゃんのお部屋」と爺の絵が描かれて貼られている。 ドアの向こうにいる爺に声をかける。 「爺、俺だ」 「入れ」 ドアを開ける。 何もない部屋だ。ただ無骨に高そうな皮製のソファーがガラスのテーブルを挟んで2つある。 壁際には小さな移動式のテーブル。 瓶に入った粉末のコーヒー、ティーポット。 グラスやカップが規則よく並び、壁には孫が描いた爺の絵が貼られている。 「久しぶりだな」 立派な木製の机に両手を組みその上に顎を置いている初老を迎えた男がこちらを見ている。 白髪に染まった肩まで伸びた髪。肉付きのいいその体格と鋭い瞳は見た目よりも体を大きく見せている。 「何のようだ?」 休暇を奪われた私は不機嫌だ。 つまらない任務で呼んだのなら断って帰るつもりだ。 爺は机の中から何かを取り出している。 「そんなに無愛想に言うな。ルナ、何か飲み物を用意してもらえんか?」 「はい」 ルナは嫌がる事なく爺の為に茶を淹れている。
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