レイニィレイディ

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   ──こんな嵐の時にまで、どうしてそうしているんですか、あなたは!  横顔に怒鳴りつける。声が、僅かにその瞳を揺らした気がした。  バケツをひっくり返したような、瀑布のさなかにいるような、そんな雨の中で、彼女は僕の声を噛みしめるように、少しの逡巡の色をその横顔に映した。 「待っているんです。」  ポツリと、 「ずっと、待っているんです。」  僕に一瞥もくれず、彼女は空へと語りだした。その声をどこへ届けようというのか、虚空に向かって一人ごちる。  ──待ってる? ずっと……?  僕はぜいぜいと息を荒げるばかりで、そのオウム返しの文句を紡ぐことしかできなかった。 「はい。私を捨てた両親をずっと待っているんです。」  ──えっ……。  虚を突かれた。絶句し、ハッとしたように僕の瞳が震えた。 「あの日──捨てられた時。その日も、ひどい嵐でした。ごうごうと雨が降り注ぐ、今日みたいな豪雨の朝。泣き虫の私は、この場所に捨てられました。捨てられた理由はよく分かりません。でも、両親には『泣くな』とよく叱られていたので、きっとそのせいなんだと思います。『ここで待っていなさい』。そう言って二人は何処かへ行ってしまいました。」  帰ってなんて、きませんでした。  淡々と、天へ。彼女が紡ぐ言の葉はひらりひらりと、羽のように中に舞い上がっていく。行き着く先には何がいるんだろうと、荒れる街の中で一瞬思考した。 「無理心中したんだそうです。私は保護された先の警察署で知らされました。それからの私は独り身で、親元からは関わるなと言わんばかりに毎月大金が送られるようになりました。」  でも。 「待つことをやめることが、私にはできませんでした。いつか空から、光と一緒に二人が迎えに来るんじゃないかって、子ども心に描いた夢みたいな空想が、私の根幹にこびり付いて拭いきれなかったのです。そしてもしその時、私がべそをかいていたら、両親は呆れて帰ってしまうんだろうなって。でも……、でも、ここにいたら、必ず私は泣いてしまうから……。」  だから、 「涙が二人にばれないように……、私は、ずっと雨の日を選んでいたんです。空を見て、割れた雲間から二人が迎えに来るのを待っていたのです。ずっと、悲しかった。」  
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