レイニィレイディ

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   雨が降っている。ざあざあとアスファルトを叩く六月の雨。排水溝に流れ込むはずが、車道に出来上がった歪みに滞留して、所々に即席の小池を形成している。しばしば通り過ぎる自動車が、そこから不定期かつ断続的に水滴を蹴り上げていた。一瞬の枯渇と一瞬の再生。  水溜まりにどことなく輪廻性を感じる。  その脇、縁石に区切られた歩道の路傍で、僕はふとそんなことを思った。溜め込んだ水を失い、瞬く間に同じだけを湛える雨の日の水溜まり。その様に不変的既視的なループを感じた。デジャヴの仕組みを見た気がした。  雨の日はループに満ちている。渇いては満ちる水溜まりのループ。フロントガラスを行き来するワイパーのループ。畳まれ、開かれ、また畳まれる傘のループ。ざあざあ、ぱらぱら、しとしとと耳で捉える音すらが奏でる擬音のループ。  雨の日にだけ現れるそんな日常のループに紛れて、もう一つ。雨の日にだけ現れる事象が、近頃の僕は気になって仕方がなかった。  ──いた。  車道を挟んで向こう側の歩道の路傍。腰まで届こうかという長い黒髪が印象的な女性が佇んでいた。傘も差さず、ただただ上空に横たわる雨雲を眺めながら、ひたすらに佇んでいた。  日曜日だ。  今日の僕は、彼女に気を取られながらもここを通り過ぎる必要はないのだ。それに、そもそも用事などなかった。僕は今日、外に雨を認めたその瞬間から、彼女に会いに行くことを決意したのだから。  
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