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──傘、ささないんですか?
「はい。傘をさしては意味がありませんから。」
──意味?
「はい。雨に打たれなければ、意味がないんです。私にとっては。」
──どうして……?
「それは内緒です。」
切れ長の目は空を見上げたままで、唇の前に人差し指を添えて秘匿の仕草。ずぶ濡れで不可思議な印象ばかりだったが、その動きは少女のようで可愛らしかった。
──雨が好きなんですか?
「うーん……、どうだろう……? そんなの考えた事もなかったな。」
──そうなんですか? それは少し意外ですね。
「そう? じゃああなたは? 雨好きですか?」
問い掛けの時すら瞳は雨雲。まるで空に語りかけるように、彼女は言葉を紡ぎ出す。
──僕は……。
どうだろうか? さした傘を叩く雨音を聞きながら少し考えてみる。答えはすぐに思いついた。
──嫌いじゃないですね。音も好きですし、ワイパーが水滴を払って視界がひらける瞬間とか、部活も雨だと早めに終わりますし。
「そうですか。」
──はい。
と。そこで一旦会話が途切れた。
僕の位置からでは彼女の横顔しか見えないけれど、それだけでも凄い綺麗な人だと僕は思った。遠くからじゃなくて、こうして間近で見る彼女は、雨濡れする姿が色っぽくて、華奢な体でそうしているのが危うくも感じて……。
雨止みの気配はない。彼女はいつまでその肢体を雨水に晒すつもりなのだろうか。
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